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2025.07.23 活動報告

【ウクライナ危機】強制移住から希望へ―現地職員にインタビュー 第3回

ロシアによるウクライナ全面侵攻開始から3年以上が経ちました。この紛争は、2014年のクリミア併合・ドンバス戦争、さらにはそれ以前の歴史にも連なる複雑な背景を持っており、その中で長年にわたり影響を受けてきた人々がいます。 

今回は、ウクライナ南部のオデーサに拠点を置く、グッドネーバーズ・ジャパン(GNJP)の提携団体「The Tenth of April(TTA)」でプロジェクトマネージャーを務めるゼイトゥリャーエヴァ・エルヴィラさんにお話を伺いました。

エルヴィラさんは、GNJPとTTAがウクライナのドニプロペトロウスク州、ハルキウ州の前線地域で展開している人道支援活動を現地側で指揮しています。
ウクライナのクリミア・タタール人である彼女に、自身の強制移住の経験、故郷クリミアへの想い、そして避難民支援の最前線などについて聞きました。 

幾度も経験した強制移住と、故郷クリミアへの想い

インタビューを行った2025年3月はラマダンの時期でした。エルヴィラさんを含むクリミア・タタール人はイスラム教徒であり、ラマダン中は断食を行うだけでなく、平和の訪れ、故郷への帰還、家族の安全と健康を願って祈りを捧げるといいます。 

エルヴィラさんの人生は、度重なる強制移住を始めとする理不尽な運命に翻弄されてきました。

始まりは旧ソ連時代の1944年、スターリン政権による約20万人のクリミア・タタール人の中央アジアやシベリアへの強制追放です。劣悪な環境での移送と辺境への移住、強制労働により、数万人が飢餓や病気、過労で亡くなりました。
エルヴィラさんの両親も故郷クリミアから追われ、彼女は中央アジアのタジキスタンで生まれました。ソ連崩壊後の1992年、家族とようやくクリミアへ戻ることができましたが、2014年にはロシアのクリミア併合により再びクリミアを離れ、ウクライナ本土への移住を余儀なくされました。
その後、2022年のロシアによる全面侵攻で一時国外に避難したものの、現在はオデーサに戻り、TTAの活動を支えています。 

故郷クリミアを「太陽のように明るく、海と山に囲まれた宝物」であり、家族と暮らし子どもを育てた「家」のような場所だと語るエルヴィラさん。その喪失の痛みは、彼女の原動力の一部でもあります。

法律家としての歩みと緒方貞子氏との出会い

クリミアに戻った1992年当時、タタール人がウクライナ市民権を得ることは容易ではありませんでした。

エルヴィラさんは弁護士としてキャリアを積みながら、タタール人の権利回復を目指して活動しました。
その中で、1997年の国連難民高等弁務官・緒方貞子氏のクリミア訪問と支援が法改正を後押しし、数十万人のクリミア・タタール人のウクライナ市民権取得に繋がりました。

これにより、後のロシアによるクリミア併合や全面侵攻下の避難においても移動が可能となり、ウクライナ政府から法的な保護や支援を受けることができるなど、多くの人の命を救うことに繋がりました。 

国内避難民支援の最前線から

2014年当時、ウクライナ国内では、「国内避難民(IDP)」という概念すら広く理解されていませんでした。しかし2022年の全面侵攻により、数百万人が国内外に避難を強いられる事態となり、多くの人にとって自分事として振りかかりました。

エルヴィラさんが活動するGNJPの活動地域は戦闘地域に近く、水や生活必需品、電気なども手に入らない、壮絶な状況になっていると言います。 
「日本からの支援は、想像を絶する困難に直面している人々にとって、極めて重要な支えとなっています」と彼女は話します。 

言葉と文化、そしてアイデンティティ

現在オデーサで暮らすエルヴィラさんは、家庭環境やルーツの影響からロシア語を日常的に使うことが多いものの、ウクライナ語への敬意も強く抱いています。子どもの頃から本が大好きで文学や詩に深く親しんでおり、ウクライナ語文学も愛読してきました。 

「読み書きではウクライナ語を使いこなせるものの、緊張するとウクライナ語で自分の考えを表現することが難しくなる時もあります」と語る彼女のように、複数の言語を使い分けながら暮らしている人々は、ウクライナには少なくありません。 

他のインタビューでは第一言語であるロシア語で話すエルヴィラさんですが、ウクライナ語への敬意を込め、下記の動画ではあえてウクライナ語でこの2つの言語について語ってくれました。 

実際、2021年末時点でのウクライナの調査によると、家庭で主にロシア語を使っていると答えた人は全国で約26%(ウクライナ語は46%)、ウクライナ語とロシア語の両方を使う人と合わせると過半数にのぼります。東部・南部ではロシア語話者が多数になる地域も多く、オデーサもその一つです。

しかし、これは単に「親ロシア」ということではありません。「ロシア語を話す=親ロシア的」という単純な図式は、ウクライナの現実を見誤らせる恐れがあります。特に2022年以降は、戦争の影響でロシア語を話すことに心理的抵抗を感じる人や、公的な場ではウクライナ語を選ぶ人が増えていることも事実です。教育や報道、行政などでも、ウクライナ語の使用が奨励されるようになってきました。 

それでも、母語としてロシア語を抱えたまま、「ウクライナ市民」としてのアイデンティティを保ち、暮らしている市民も多くいます。エルヴィラさんの経験を通しても分かるように、言語は忠誠や共感を測るものさしではなく、個人の歴史や環境を映し出すものであるという視点が、より広く共有される必要があるのかもしれません。 

伝えたいこと―支える力は、私たちの中にある 

「困っている人を支える力は、誰の中にもあるのではないかと思います。手と足が動く限り、誰かを助けに行くことができます。」

彼女は、避難民自身が支援の担い手となっているウクライナの現状を語ります。また、前線地域から多数の避難民を受け入れる、ドニプロペトロウスク州パヴログラードの地元住民が見せる共感力にも、深く感銘を受けたといいます。 
人は、困難の中でも希望を見出し、助け合うことができる―これこそが、戦争の中でも人間らしさを失わないための光なのかもしれません。 

おわりに

クリミア・タタール人として、ウクライナ市民として、そして一人の人間として、彼女が歩んできた道のりは、言語や出身地を超えた人間としての尊厳と、多様なアイデンティティを抱えながらも共に生きることの大切さを教えてくれます。 

戦争の長期化により、支援ニーズはますます多様化し、現地の状況も刻々と変化しています。 

グッドネーバーズ・ジャパンは、今後も現地の人々と共に、ウクライナでの人道支援活動を継続してまいります。皆さまお一人おひとりのご支援が、エルヴィラさんをはじめとする現地スタッフの活動を支え、真に必要とされる支援を届けることを可能にしています。改めて感謝を申し上げますと共に、遠く離れた場所で懸命に生きる人々を今後も一緒に支えていただきますようお願い申し上げます。 

過去の現地職員インタビュー

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【ウクライナ危機】「つらい体験も人生の糧に」子どもたちを支える現地職員にインタビュー 第1回

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