【エチオピア 命をつなぐ支援】南スーダン・スーダン難民への起業支援及び平和構築の取り組み

エチオピアはアフリカで3番目に多くの難民を受け入れている国であり(UNHCR 2024)、南スーダンおよびスーダンと隣接するベニシャングル・グムズ州アソサ県には両国から多くの難民の人々を受けていれています。
2023年11月から2024年9月にかけて、グッドネーバーズ・ジャパンは前年度の事業に引き続き、同県のツォレ難民キャンプにて、南スーダンおよびスーダン難民とホストコミュニティ(難民を受け入れる側の地域住民)の双方を対象とした生計向上支援事業・平和構築事業を実施しました。その結果、難民・ホストコミュニティともに事業前と比べ収入を増やすことができました。また難民とホストコミュニティ間での交流の機会を通じて相互理解の促進や信頼関係の増強もなされました。
※本事業は、ジャパン・プラットフォームの助成の南スーダン難民緊急支援事業です。
持続性のある生計向上を促す起業・畜産支援
ツォレ難民キャンプは商業地域から離れており、就労の機会が身近になく、自ら起業する資金もないため、ほとんどの難民が安定した生計手段を持っていない状況でした。さらに、ずっと続いていた外部からの食料配給が一時停止*1してからは、日々の食料を賄うためにキャンプ外の危険な金鉱業に従事せざるを得ない難民も増えていました。
また、キャンプ周辺のホストコミュニティの村も開発が遅れている地域であり、住民の大多数が農家でありながら、生産量が低く、収入が低いという問題を抱えていました。そのため、外部からの配給に頼る難民を快く思わない人々もおり、難民とホストコミュニティの間に緊張状態が続いていました。
このような状況を受け、グッドネーバーズ・ジャパンは、前年度の事業に引き続き、難民とホストコミュニティがお互いに対立を助長しないように、両者に対して生計向上支援を実施しました。
まず36人の難民の若者に対して起業研修を行い、起業に必要な商業施設の建設や、資金および資機材の提供を行いました。その結果、30人は製粉所*2を協働で起業し、3人は小売店、残り3人はレストランを起業しました。


また、キャンプの気候はヤギの繁殖や肥育に適しており、多くの難民が出身国ではヤギの飼育を行っていた経験があるという状況を踏まえ、180世帯に対して畜産研修を行い、ヤギおよびヤギ小屋を提供しました。
ホストコミュニティに対しては、製粉所や小売店を建設し、「多目的協同組合」という組織に譲渡しました。多目的協同組合とは、農作物や畜産物をまとめて販売したりすることで地域の農家を支援する組織で、協同組合に安定した収入源を創出することで、所属する農家の収入増加に貢献しました。

また、エチオピアには「貯蓄信用組合」とよばれる、組合員に対して預金や借入等の一般的な金融サービスを提供する、日本の信用組合のような仕組みがあります。しかし、本事業の対象地であるホストコミュニティの村ではその組合がなかったため、新たに設立しました。運営に必要な法的資格の取得や組合員の登録なども進め、住民たちが生計活動の生産性を向上させ、規模を拡大するために必要な融資が得られる環境づくりを行いました。さらに、これらの2つの組合が共同で利用できる事務所を建設することで、彼らが持続的に活動できる環境を整備しました。また、40世帯に対して、難民と同様に畜産研修を行い、ヤギを提供しました。
その結果、平均の月収が、起業支援を受けた難民の間では約107%増加、畜産支援を受けた難民とホストコミュニティの間では約55%増加、組合支援を受けたホストコミュニティの間では約29%増加したことがわかりました。

*1:現在は再開しています。
*2:農業大国であるエチオピアでは、トウモロコシ等の穀物の製粉サービスを提供する製粉所の運営は主要なビジネスとなっています。
お互いを理解し、認め合い、平和的な共存を目指す平和構築支援
対象地では盗難や無許可の木材収集などのトラブルが発生する中、難民とホストコミュニティの間に交流の場がなかったため、不信感が募り緊張関係が続いていました。
グッドネーバーズ・ジャパンは、両者の代表者を集めたグループ(共同委員会)による活動を通じて、両コミュニティが平和的に共存するための仕組みづくりを前年度から行っており、本事業でも継続して実施しました。
具体的には
①コミュニティ間の問題やその解決策に関する話し合い、共同委員会の活動計画を立てる平和的対話セッション(計20回)
②共同委員会のメンバーが自身のコミュニティ全体に向けて行う社会的結束に関する啓発活動(計11回)
③コミュニティ内で社会的結束の重要性を高めるための啓発資料の作成・設置
④難民とホストコミュニティ両方の住民が参加するスポーツや伝統音楽のパフォーマンスを行う大規模なイベント(計2回)
を実施しました。

加えて、前年度事業の教訓として、具体的な問題解決のためには警察や司法セクターとの協働が不可欠であることが分かったため、今回から新たに共同委員会と警察および司法関係者間で定期的に話し合う場も設けました。計10回の会議を通して、共同委員会が紛争予防と解決のための重要な役割を担う存在であることを認識してもらい、共同委員会と警察および司法関係者間で強いパートナーシップを育むことができました。

本事業終了時に行った調査では、難民とホストコミュニティがお互いに平和的な関係を築けていると感じる度合いに向上が見られました*3。事業終了後も共同委員会を中心に対話の機会を継続的に設けることになり、今後もさらに平和的な関係が続いていくことが期待されます。

*3:社会的結束の度合いの変化を測るため、「歓迎されていると感じますか?」「信頼していますか?」「一緒に活動することで解決策が見いだせると感じますか?」「行政が公正に対応していると感じますか?」などの質問を6段階評価で回答してもらい、難民とホストコミュニティがお互いに対して抱く感情や現地行政に対する信頼度などを数値化して調査しました。その結果、事業開始時の数値と比べ、事業終了時の数値が約37%増加していることが確認できました。
おわりに
グッドネーバーズ・ジャパンは、今後も難民の人々がホストコミュニティと平和的な関係の下、自らの力で持続的に生計を立てていけるよう、対象地域・コミュニティを変えながら、支援を続けてまいります。
皆さまからの温かいご支援をお待ちしております。
最後になりますが、JPFによるソーシャルグッドタイムズにて本事業の対象地での実際の活動が動画にて紹介されています。ぜひご覧ください。
【本事業(フェーズ2)の活動成果】
生計向上支援
・36人の難民に対する起業支援
・難民がビジネスを行うための製粉所・商業施設の新規設立
・難民180世帯、ホストコミュニティ40世帯に対する畜産支援
・多目的協同組合の体制整備およびサービス拡充(製粉所、小売店、事務所建設、資機材投与および研修)
・貯蓄信用組合の新設および体制整備(事務所建設、資機材投与および研修)
平和構築支援
・難民とホストコミュニティの代表者から構成される共同委員会メンバー25人に対するワークショップの実施
・難民とホストコミュニティ間で平和的対話セッションを20回実施
・各コミュニティで平和的共存に関する啓発活動を11回実施
・共同委員会メンバー主体で警察や司法関係者と定例会議を10回実施
・難民とホストコミュニティの一般住民が交流するイベントを2回開催
【フェーズ3事業の概要】
グッドネーバーズは、2024年11月から、フェーズ1および2から対象地を移動し、新たにシェルコレ難民キャンにてフェーズ3事業を実施しています。以下のとおり、フェーズ3においても、難民とホストコミュニティの双方に対する生計向上支援と平和構築支援を継続しています。
生計向上支援
・難民120世帯およびホストコミュニティ40世帯に対する畜産(ヤギ)支援
・ホストコミュニティ80世帯に対する畜産(養蜂)支援
・難民45世帯およびホストコミュニティ5世帯に対する起業支援
・ホストコミュニティの多目的協同組合のサービス強化
平和構築支援
・難民とホストコミュニティの代表者から共同委員会を再結成、研修実施
・両コミュニティ間による平和的対話
・各コミュニティでの啓発活動
・交流イベントの開催
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